カテゴリーを選択する

つれづれなるままに

6月19日は人類が火星への最初の本格着陸に成功した日

6月19日は人類が火星への最初の本格着陸に成功した日

記事をシェアする

1976年の6月19日は、周回機と着陸機を組み合わせた火星探査機のバイキング1号が、火星周回軌道へ入った日です。今回は、NASAの火星探査機の歴史と、四つの転換点について確認してみましょう。

第1期 1976年、火星は「着陸して調べる場所」に―バイキング1号

NASAの火星探査の大きな出発点は、1976年のバイキング1号です。バイキング1号は周回機と着陸機を組み合わせた探査機で、1976年6月19日に火星周回軌道へ入り、翌月の7月20日に着陸機がクリュセ平原に到達しました。NASAはこれを「火星への最初の本格的に成功した着陸」と位置づけています。

この時代の主役は、「火星をまず安全に見る・測る」ことでした。周回機は上空から地形を撮影し、着陸候補地を確認し、火星全体の地図づくりに大きく貢献しました。一方、着陸機は移動しない固定観測所として、写真撮影、気象観測、土壌分析、生命探査実験などを行いました。つまりバイキング1号の役割は、火星を遠くから眺める天体ではなく、「地面に手を伸ばして調べられる惑星」に変えることだったのです。

ただし、バイキングは「走る探査機」ではありませんでした。火星の一点に腰を据え、ロボットアームで土をすくい、周辺環境を詳しく調べる探査です。のちのローバー探査に比べると行動範囲は限られますが、火星表面で長期観測をするという考え方を確立した点で、NASA火星探査の第一期を象徴しています。

第2期 1997年、小さなローバーが火星を走行 ―マーズ・パスファインダー

第二の転換点は、1996年12月4日に地球を発ち、約7か月後の1997年7月4日に火星のアレス谷へ着陸したマーズ・パスファインダーです。このミッションは、着陸機と小型ローバー「ソジャーナ」を火星表面へ届けることを目的とし、NASAにとって初の火星ローバー運用を実現しました。

パスファインダーの役割は、バイキングのような「重厚な固定観測所」ではなく、新しい着陸技術と移動探査の実証でした。探査機はパラシュートと巨大なエアバッグを使って火星に降り立ち、着地後に何度も跳ねてから停止しました。これは当時として画期的な方式で、ソジャーナは約10.6キログラムの小さなローバーながら、岩石や土壌の化学分析、地形観察、気象データ取得に貢献しました。

ここで火星探査は、「着陸地点の周囲を見る」段階から「岩へ近づき、選んで調べる」段階へ進みました。ソジャーナは小さな一歩でしたが、意味は大きいものでした。のちのスピリット、オポチュニティ、キュリオシティ、パーセビアランスへ続く“走る探査”の扉を開いたからです。

第3期 2011年、「移動する実験室」―キュリオシティ

第三期の中心は、2011年11月26日に打ち上げられ、2012年8月6日に火星へ着陸したマーズ・サイエンス・ラボラトリー、特に大型ローバー「キュリオシティ」です。NASAはキュリオシティを、打ち上げ当時「火星へ送られた最大かつ最も高性能なローバー」と説明しており、その目的は「火星がかつて微生物の生存に適した環境を持っていたか」を調べることでした。

キュリオシティの重さは約900キログラム、つまりほぼ1トン級です。これほど重いローバーは、パスファインダーのようなエアバッグ方式では安全に下ろせません。そのためNASAは、ロケットで減速する降下装置からケーブルでローバーを吊り下ろす「スカイクレーン」方式を採用しました。この方式は、大型ローバーを車輪で着地させ、着陸後すぐに探査へ移れるようにする技術でした。

科学面で見ると、キュリオシティは「生命を直接見つける探査機」というより、「生命が存在できた環境を調べる探査機」です。ゲール・クレーターで岩石を掘削し、車載の化学・鉱物分析装置で調べ、過去に水や生命に必要な化学条件があったかを検証してきました。JPLの説明では、キュリオシティは17台のカメラとロボットアーム、実験室のような科学装置を備えたローバーです。

この時期に、火星探査は「行けるかどうか」から「どこを、なぜ、どう分析するか」へ深まりました。バイキングが火星に着地し、パスファインダーが走ることを実証したとすれば、キュリオシティは火星で本格的な地質学と環境史の調査を行う時代を開いたのです。

第4期 2020年代、「試料を地球へ持ち帰る準備」へ ―パーセビアランス

第四期は、2020年7月30日に打ち上げられ、2021年2月18日にジェゼロ・クレーターへ着陸したマーズ2020、愛称「パーセビアランス」です。NASAによると、このローバーの目的は、古代の微生物生命の痕跡を探すこと、そして将来地球へ持ち帰る可能性のある岩石やレゴリスの試料を採取することです。

パーセビアランスの役割は、キュリオシティよりさらに一歩踏み込んでいます。キュリオシティが「火星は住める環境だったか」を調べる移動実験室だったのに対し、パーセビアランスは「生命の痕跡を保存していそうな岩を選び、将来の地球帰還に備えて封入する」ローバーです。NASAは、パーセビアランスを、火星の岩石や土壌をドリルで採取し、チューブに保管する実証を行う初のミッションと説明しています。

このミッションには、ローバー本体だけでなく、小型ヘリコプター「インジェニュイティ」も同行しました。インジェニュイティは当初、30日間で最大5回程度の飛行を目指す技術実証でしたが、最終的には72回飛行し、火星での動力飛行と空からの偵察の可能性を示しました。

さらに近年、パーセビアランスが採取した「サファイア・キャニオン」という試料は、古代生命の可能性に関わる「潜在的なバイオシグネチャー」を含むとして注目されています。ただしNASAは、これは生命発見の確定ではなく、追加データや地球上での詳細分析が必要だと説明しています。火星探査は、現地観測だけで結論を急ぐ段階ではなく、試料を地球の高度な実験室で調べる段階へ向かっているのです。

上田 祐介
上田 祐介
チーフインベストメントストラテジスト
JTG証券経済調査室長 兼 チーフインベストメントストラテジスト。クオンツアナリストとして職歴を開始。その後は複数の大手外資系投資銀行などで主にクレジット市場関連の業務を歴任。海外クレジット市場の分析に強み。

記事をシェアする

免責事項

  • 本サイトは証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘や紹介する個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。最終的な投資判断は投資家ご自身でおこなってください。万一、本サイトの情報に基づいて投資した結果、お客さまが損害を被ったとしても本サイトの運営会社は一切その責任を負うものではありません。
  • 本サイトの内容は作成時点のものであり、信頼できると判断した情報源からの情報に基づいて作成したものですが、正確性、完全性を保証するものではありません。
    本サイトに記載の情報、意見等は予告なく変更される可能性があります。