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AIの未来も変える人工ダイヤモンド

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人工ダイヤモンドの歴史と工業用途

ダイヤモンドとは、ギリシャ語で「アダマス(adamas=征服しにくいもの)」が語源となっており、16世紀の中ごろに現在の「ダイヤモンド」となりました。和名は金剛石(こんごうせき)です。純粋な炭素からなる鉱物で、天然の物質のなかで最も硬いことから、天然で産出するダイヤモンドでさえもおよそ8割が工業用として利用されており、人工的に作られるダイヤモンド(人工ダイヤモンド)ではほとんどが工業用となっています。

人工ダイヤモンドの製造は、宝石よりも「ものづくり」の歴史として始まりました。1954年、米GEのH・トレーシー・ホールらが高温高圧法で再現性のある合成に成功し、1955年に発表されました。当初できた結晶は小さく、褐色で、宝飾品には向きませんでしたが、硬い材料を切る、削る、磨く用途には大きな価値がありました。現在も2つの合成法(高温高圧で天然の生成環境を再現するHPHT法と、炭化水素ガスから炭素を結晶成長させるCVD法)による生産が続いています。

工業用では、研磨材、切削工具、ドリル、半導体ウエハの加工、精密部品の鏡面研磨などに使われます。ダイヤモンドは硬さと熱の拡散性に優れるため、非鉄金属、セラミックス、複合材料など難削材の加工に向いています。このような人工ダイヤモンドは、宝石としての輝きより、粒径、結晶の均一性、欠陥の少なさ、安定供給こそが価値になる工業原料です。人工ダイヤモンドは、まさに「産業の歯」として広がってきた素材でした。

※この部分の出所はアライドマテリアルなど

宝飾品レベルの人工ダイヤモンド

当初、合成して作られた人工ダイヤモンドは透明性や輝きという点で、天然ダイヤモンドに遥かに及びませんでした。また、ダイヤモンドならではの光の屈折率など、美しさの点でも大きく劣ってしまいました。このため、宝飾品レベルの人工ダイヤモンドを作るには、天然石が地中で長い時間と高温高圧を受けて作られる過程と同じように、「炭素結晶を同じ方法でより短い時間軸で作る技術」を磨き上げなければなりません。

宝飾品としての転機は、1971年にGEが宝飾品質の合成ダイヤモンドを発表したことです。その後、CVD法などの進歩により、無色透明で大粒の石も市場に出るようになりました。販売時には「ラボグロウン」「ラボクリエイテッド」など、採掘石ではないことを明確に示す表示が求められます。なお、米国連邦取引委員会(FTC)も、同じ光学的・物理的・化学的性質を持つ人工宝石について、消費者に採掘石ではないと明確に伝えることを求めています。

鑑定・研究機関であるGIAでは、ラボグロウン・ダイヤモンドの鑑別研究を長年行ってきました。GIAは、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドは炭素原子が立方晶構造をとる点では共通する一方、成長構造や原子レベルの欠陥に違いがあるため、適切な検査によって識別できると説明しています。

より大きな人工ダイヤモンドが製造できるようになった結果、宝飾品のデザインの幅も大きく広がりました。この結果、世界のダイヤモンド市場の規模は急速に成長しています。2024年に976億米ドルだった市場は2025年に1,021億ドル、2034年には1,531億ドルまで成長する見込みです。消費量の約半分は米国の消費です。一方で、宝飾市場では価格下落が急です。米国の小売データでは、2025年にルースのラボグロウン・ダイヤモンドは販売個数が増えた一方、売上はわずかに減少しました。宝飾用ダイヤモンドの価値の源泉は「希少性」から「デザイン、サイズ、価格、倫理性、開示の透明性」へ移りつつあります。

※この部分の出所はGIAForbes Business Insideなど

量子コンピューターのキーテクノロジーへ

人工ダイヤモンドの次の主戦場は、宝飾ではなく先端技術となりました。ダイヤモンドは量子デバイスと呼ばれる半導体素子の原料となり、室温で動作し、固体で、真空装置を必ずしも必要としない新たな半導体技術として注目されています。

ダイヤモンドの純粋な炭素の結晶格子の中に、ごくわずかに「窒素原子」を入れ込み、その隣の炭素が「抜け落ちた(空孔)」状態のナノスケール構造を、「NVセンター」と言います。この構造を利用すると、非常に高精度な磁気センサーを作ることができ、既に医療や材料解析への応用が進んでいます。また、このNVセンターは、室温でも信号(スピン)を安定して維持できるという極めて珍しい特性を持っているため、超並列計算を行う量子コンピューターの量子ビットとして機能することもできます。

ダイヤモンド製の半導体は、高周波・高出力に強く、エネルギー効率が高く、熱を逃がしやすいという特徴があります。そのため、冷却に必要な電力や装置を小さくでき、電気自動車、6G基地局、宇宙、原子力など、過酷な環境での省エネデバイスとして期待されています。産総研も、ダイヤモンド半導体を「究極の半導体」と呼ばれる材料として紹介しています。

ただし、量子コンピューターもダイヤモンド半導体も、まだ量産・大面積基板・欠陥制御が課題です。可能性は大きいものの、勝負は「きれいな結晶を、安く、大きく、安定して作れるか」にかかっています。

※この部分の出所は産総研など

市場シェア、中国、日米共同プロジェクトの背景

人工ダイヤモンド市場のシェアは、「宝飾品の販売額」「原石・結晶の生産量」「工業用砥粒」で数字が変わります。調査会社Fortune Business Insightsでは、世界のラボグロウン・ダイヤモンド市場を2025年に294.6億ドル、2026年に335.4億ドルと見積もり、2025年はアジア太平洋が34.54%を占めたとしています。同資料では、中国市場は2025年に35.6億ドル、2026年に42.4億ドルとされています。

生産面では中国の存在感がさらに大きく、FTでは宝飾用ラボグロウン・ダイヤモンドの世界生産の7割超が中国由来で、河南省が中心地だと報じています。中国は2025年10月、一部の人工ダイヤモンド微粉、単結晶、ワイヤーソー、研削砥石などを輸出許可制の対象にすると発表しました。ただし、中国商務部は2025年11月7日、関連措置の実施を2026年11月10日まで一時停止すると発表しています。ロイターは、人工ダイヤモンドが半導体の超精密研磨、量子デバイス用セラミックス加工、先端電子機器の放熱、軍民両用分野に関わる素材だと指摘しています。

この文脈で見ると、高市政権下の日本とトランプ政権下の米国が進める対米投融資第1陣に、ジョージア州の人工ダイヤモンド製造施設が入った意味が良く分かります。2026年2月17日に発表された第1陣は、オハイオ州のガス火力、テキサス州の原油輸出施設、ジョージア州の人工ダイヤ製造施設の3案件で、人工ダイヤ案件は約6億ドル規模と報じられました。狙いは宝石ではなく、半導体・精密加工・先端産業のサプライチェーンにおける中国依存度を下げ、日米が自前で供給網を確保することにあります。

上田 祐介
上田 祐介
チーフインベストメントストラテジスト
JTG証券経済調査室長 兼 チーフインベストメントストラテジスト。クオンツアナリストとして職歴を開始。その後は複数の大手外資系投資銀行などで主にクレジット市場関連の業務を歴任。海外クレジット市場の分析に強み。

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