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つれづれなるままに

雨に映える花――紫陽花(あじさい)を愛でる季節

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日本の梅雨とあじさいを楽しむ場所

日本の梅雨は、空が低く、湿った風が町や山里を包む季節です。けれども、その灰色の時間を静かに明るくしてくれる花があじさいです。見ごろは地域や標高によって少しずつ違いますが、関東から西日本ではおおむね5月下旬から7月上旬、特に6月中旬前後がもっとも華やかな時期になります。雨が降ると花房は重たげにうつむき、石畳や葉の緑はしっとりと光り、晴天の日よりも色の輪郭がやわらかく見えます。

名所としてまず思い浮かぶのは、鎌倉の明月院です。参道を染める約2500株の青い花は「明月院ブルー」と呼ばれ、雨粒を受けるほど深い色を帯びます。同じ鎌倉の長谷寺では、斜面の「あじさい路」に40種類以上約2500株が植えられ、海を望む眺めと花の重なりが楽しめます。京都・宇治の三室戸寺では、杉木立の間に2万株のあじさいが咲き、静岡・下田公園では15万株、約300万輪ともいわれる大群落が初夏の旅人を迎えます。東京の白山神社のように、都市の寺社で楽しむ祭りもあり、あじさいは観光地だけでなく日常の路地にも似合います。

梅雨を避けるのではなく雨の日にこそ出かけたくなる、傘を差して歩く不便ささえも花を楽しむゆとりにしてくれる――あじさいは、日本人の季節感をそう変えてくれる花です。

日本におけるあじさいと庭園文化の歴史

あじさいは、日本の庭園文化とも深く結びついてきました。『万葉集』には「あぢさゐの八重咲くごとく」と詠まれたがあり、奈良時代にはすでに人々の目にとまる花であったことがうかがえます。ただし、桜や梅のように早くから晴れやかな花見の主役であったというより、湿った山野や海辺に咲く、少し控えめな花として親しまれてきた面があります。鎌倉時代には園芸種として育てられましたが、江戸時代には一般的な庭園植物になっていきました。

江戸時代は大名から庶民までが園芸に熱中した時代で、鉢植えや植木市、花の名所めぐりが都市の楽しみになりました。その流れの中で、あじさいも寺院の境内や屋敷の庭、里山の小径に植えられ、石段、苔、竹垣、雨樋、池の水面と響き合う植物として受け入れられていきました。

日本庭園は、常緑の松や石組みで永続性を示す一方、季節の草木で時間の移ろいを映します。春の桜や秋の紅葉に比べ、梅雨の庭は見せ場をつくりにくい季節ですが、あじさいはその空白を埋め、雨音を景色の一部に変える力を持っています。花色が土壌によって青や桃色に変わる性質は、「七変化」という呼び名や、移ろう心を重ねる文学的な感覚も生みました。あじさいの美は、一輪を切り取るより、濡れた石や曇り空、遠くの雨音まで含めた風景の中で完成するところに、日本庭園らしさがあります。

あじさいの種類と海外のあじさい

あじさいの種類は、見た目以上に多彩です。日本原産のガクアジサイは、中央に小さな両性花が集まり、その周囲を大きな装飾花が額縁のように囲むことから名づけられました。これに対して、手まりのように丸く咲くホンアジサイは、庭木や寺院の植栽で親しまれてきた形です。山地に自生するヤマアジサイは小ぶりで繊細な姿が魅力で、近年は園芸愛好家の間でも人気があります。ほかにも、葉が柏に似たカシワバアジサイ、円錐形の花房をつくるノリウツギ、白い大輪で知られる「アナベル」など、性格の異なる仲間があります。(なお、花びらに見える部分の多くは、じつは萼が発達した装飾花であり、青や桃、紫へと変わる色は、品種だけでなく土壌の酸性度やアルミニウムの吸収にも左右されます。)

海外に目を向けると、ヨーロッパで「ハイドランジア」「オルタンシア」と呼ばれる華やかな園芸品種の多くは、日本由来のガクアジサイやヤマアジサイをもとに改良され、再び日本に戻ってきた流れを持ちます。一方、北米にはアメリカノリノキやカシワバアジサイのような原産種もあります。アメリカノリノキの園芸品種「アナベル」は、白から淡い緑へ移る大きな花房で日本でも人気が高く、カシワバアジサイは花だけでなく秋の葉色や樹皮の表情も楽しめます。様々な種が世界中で栽培されるようになった今、あじさいは、日本的な繊細さと欧米的なボリューム感を同居させる国際的な園芸植物となりました。ただし、色の好みはそれぞれの園芸文化で異なり、日本では青色のあじさいが好まれる傾向がありますが、欧米ではピンクや白の品種も高い人気があります。

世界であじさいを愛でる文化

あじさいを楽しむ文化は、日本だけのものではありませんが、世界であじさいをめでる文化を比較して見ると、その土地の気候や庭園観の違いがよく表れます。

フランスでは、湿潤で温暖なブルターニュ地方にあじさいがよくなじみ、湖畔や小道を彩る夏の花として愛されています。モルビアン県の「レ・オルタンシア・デュ・オーボワ」は13ヘクタールの園内で多数の品種を見せる名所であり、同じくブルターニュのプロエルメルには、ラック・オ・デュック沿いに数千株のハイドランジアを植えた「シルキュイ・デ・オルタンシア」があります。ノルマンディーのヴァランジュヴィル=シュル=メールにある「ジャルダン・シャムロック」も、世界的なコレクションで知られます。

アメリカではマサチューセッツ州ケープコッドで、毎年夏に個人庭園を巡るあじさい祭りが開かれ、韓国・済州島でも自然公園や庭園であじさい祭りが観光の楽しみになっています。イギリスではカントリーガーデンの境界や邸宅庭園に植えられ、白、青、ピンクの大きな花房が芝生や石壁に映えます。そこでは、希少品種の保存、地域観光、個人の庭を開くチャリティーなど、花を介した交流も生まれています。

日本では雨の情緒、フランスでは海風と庭園、アメリカでは住宅街のガーデンツアー、韓国では写真映えする花の名所というように、同じ花でも愛で方は異なります。あじさいは、土地ごとの暮らしに寄り添いながら、雨や夏を待つ心を世界中で育てている花なのです。ただし、日本のように梅雨や季節感と結び付けてあじさいを鑑賞する文化は比較的独特です。海外では庭園植物としての評価が中心ですが、日本では雨や湿気までも含めた風景全体を楽しむ対象となっています。世界各地で愛されるあじさいですが、その楽しみ方には地域ごとの個性がありますね。

上田 祐介
上田 祐介
チーフインベストメントストラテジスト
JTG証券経済調査室長 兼 チーフインベストメントストラテジスト。クオンツアナリストとして職歴を開始。その後は複数の大手外資系投資銀行などで主にクレジット市場関連の業務を歴任。海外クレジット市場の分析に強み。

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