万科企業(China Vanke Co.)の社債償還延期交渉と、中国不動産業界への影響
過去5四半期にわたり中国の経済成長の足を引っ張っていたのは建設業と不動産業。万科企業は、社債元本の支払い延期を求めて10日、22日に相次いで社債権者集会を開催。本レポートでは、なぜ万科企業の社債借り換えが注目されるのか、について考察。
なぜ万科は特別なのか?
- 万科は中国不動産事業者の社債デフォルトが続出する中でも支払いを継続。深圳市とその外郭団体による金融支援が、同社にデフォルトリスクが顕在化しなかった理由。
- しかし、今回の償還延期申請は万科に対して深圳市がこれ以上、金融支援を行う気がないことを示した。万科は「当局のコミット」の強さを図るリトマス紙に。
中国不動産企業の社債デフォルト事例
- 2022年以降、中国の大手不動産ディベロッパーの国内公募債では、デフォルトが頻発。にも拘わらず、これらの企業は法的破綻していない。
なぜ中国不動産企業はデフォルトしないのか?
- アメリカや日本では、どれか一つでも主要な債務契約に不履行が発生した場合には、他の債務も直ちに一括で弁済期限が到来(期限の利益喪失)することで、債権者間の平等性を保つ「クロスデフォルト条項」が一般的。
- 中国では、クロスデフォルト条項の普及率は低い。債権者保護の契約的枠組み自体が、未だ成熟途上にある状況。
- 一方で社債デフォルト対応の初期段階で公的制度として多数決調整を行えることは、中国ならではの再編手法であり、中国の社債制度の特色。
- こうした制度設計により、中国では、債務者自身が資産整理や債務調整を行いながら期限猶延を図る「自行協商(裁判外再建)」が選好されやすい。
万科企業は、中国不動産事業のデフォルト処理を変えるのか?
- 同社社債のうち2025年12月償還の2本の社債(総額57億元)は既に社債権者集会の開催が決定済。その後も2026年4~7月の間に計5本(総額100億元)の社債が償還。
- 深圳地铁集团が自身の回収を優先し、主要資産への担保設定を進めている中、社債権者や民間金融機関は借り換えに応じうるのか、市場で疑念が高まっている。
- 民間金融機関が融資を控える動きが広がると、域内レベルでの金融システミック・リスクが顕在化する可能性も。