AT1証券のベイルイン・トリガーの解説(5) – 英国AT1債のベイルイン制度・リスク –
本レポートでは、英国銀行のAT1債のベイルインに関連した規制上の評価点や、制度に関連した税務リスクなどについて解説する。
英国のAT1債のベイルイン関連規制
- 英国のAT1債は、基本的には契約型アプローチ。
- 英国では、銀行の破綻認定が複数の機関による複数のステップにより行われる。このことはAT1債の単独ベイルインの可能性を、完全には排除できない原因ともなる。
- 英国銀行の定量的トリガーは、CET1比率7%。契約型であり目論見書内に契約条項として明記。トリガーされると自動的に普通株式への転換が行われる。
- 英国銀行の定性的トリガーは、法定(Statutory)アプローチ。契約条項には含まれない。トリガーされると、当局がAT1債を含む劣後債務を強制的に額面減額又は株式転換できる。
- 英国銀行では、定量的トリガー時に、AT1債が単独ベイルイン可能な制度設計(ただし普通株転換なので価値が即座にゼロになることはない)。
- また、定性的トリガー(PONV)時にも、AT1債が単独ベイルイン可能な制度設計(PONVと破綻処理の発動条件が必ずしも一致していないため)
英国の「破綻前」資金注入制度
- 従来の英国銀行法は、バーゼルIIIの原則通り、破綻処理前の公的資金支援は、原則として実施されない制度。
- しかし、2025年に銀行法の改変を実施。金融機関の破綻前に、FSCS(金融サービス補償制度)を通じて資本注入を行う仕組みを恒久制度として制定。注入する資金は、銀行業界が拠出する民間資金。
英国AT1債投資の考え方
- 英国の政府部門には、必ずしも銀行の事業規模や潜在リスク規模に比べ金融機関への支援余力が不十分との懸念が存在。
- 2025年に行った銀行法の改正と資本注入スキームの制度化は、英国銀行の債券の信用力を補完。ただし、TLAC債やTier2債(期限付劣後債)の安全性は高まったもののAT1債の安全性は高まったとは言い切れない、と弊社では評価。