【ショート】最新データで見る米国経済の現状|政策金利の方向感
エネルギー高が押し上げる米国のインフレ
米国の最新経済指標を見ると、物価上昇は続いているものの、その背景は需要の過熱というよりも、エネルギー価格の上昇によるコストプッシュ型の色彩が強い。CPIは前年比3.4%上昇した一方、コアCPIは2.4%にとどまり、総合指数の上昇はエネルギー価格に大きく左右されている。中東における石油供給制約が物価上昇の主因であるならば、政策金利を引き上げても原油供給そのものを増やすことはできず、インフレを直接解消することは難しい。
ここで重要なのは、総合CPIの3.4%という数字だけを見て需要が強すぎると判断しないことである。コアが2.4%にとどまる一方でエネルギーが総合指数を押し上げているため、今回の物価上昇を金融引き締めだけで抑え込むことには限界がある。
企業物価でも、エネルギー価格に加え、運輸・倉庫など物流関連コストの上昇が目立っている。燃料高による負担が物流を通じて幅広い企業活動に波及しているためである。今後、企業がこうしたコスト上昇を販売価格に転嫁すれば、物価上昇がより広い分野に及ぶ可能性がある。一方で、価格転嫁には企業側から家計への所得配分余地を増やす面もあり、単純に物価上昇だけを見て政策判断を行うことはできない。
雇用は底堅いが、家計の購買力には余裕が乏しい
雇用面では、新規失業保険申請件数が20.6万件となり、トレンドとして見ても減少傾向にある。少なくとも企業による解雇が急増している状況ではなく、失業者も大きく増えていない。この点からみれば、景気や雇用の急激な悪化に対応するための緊急的な利下げの必要性は低下していると考えられる。
しかし、家計の状況は必ずしも強いとは言えない。実質時給は前年比0.2%の減少にとどまり、物価上昇が家計の購買力を圧迫している。労働時間の増加分まで反映した実質収入では小幅のプラスを維持しているものの、家計に十分な余裕がある状態ではない。さらに、ガソリンやディーゼル価格の上昇はサービス価格にも広がり、幅広い消費を抑制する要因となっている。その結果、耐久消費財などの購入抑制にもつながっている。
つまり、雇用の底堅さは利下げを急ぐ必要性を弱める一方、実質所得と消費の弱さは追加利上げを続ける余地を狭めている。政策判断では、物価だけでなく家計への波及も同時に見る必要がある。
消費者信用の増加が追加利上げを難しくする
家計の弱さを示すもう一つの材料が消費者信用である。消費者信用は4.2%増加しており、物価が上昇するなかでも従来の消費額を維持するため、所得だけでは不足する部分を信用で補っている傾向がみられる。こうした状況で追加利上げを行えば、借入コストが上昇するため、とりわけ所得の低い層の負担が大きくなりやすい。
利上げは消費者信用のコストを押し上げ、個人所得や家計の状況をさらに悪化させる要因となる。物価上昇が続いているからといって、機械的に利上げを続ければよいわけではない。家計の購買力がすでに圧迫されているなかでは、追加利上げが短期的に個人消費を一段と弱める可能性があるためである。
9月FOMCでは0.25%利上げを織り込む市場
米国の短期金利市場では、9月FOMCにおける0.25%の利上げが織り込まれ、金利水準は全年限で切り上がっている。もっとも、仮に今回利上げが実施されたとしても、その後も継続的に利上げできるかどうかは別問題である。
物価上昇が続くなかで利上げを行う理由としては、実際のインフレを観測しながら放置すれば、価格上昇が他分野にも拡大し、後になって対応するコストが高くなることが挙げられる。
一方、継続利上げが難しい理由も明確である。第一に、現在の原油価格上昇の背景にある供給制約は、利上げによって直接解消できない。第二に、実質所得が低下し家計の購買力が弱っているなかでの追加利上げは、低所得層を中心に家計負担をさらに重くする。第三に、金利上昇は短期的に個人消費を押し下げやすい。
利上げ継続も利下げ転換も難しい
以上を踏まえると、現在の米国経済は、インフレが続いているため直ちに利下げへ転じられる状況ではない一方、家計の購買力や消費者信用への影響を考えると、継続的な利上げにも限界がある状態である。
各種指標からみれば、雇用は急激に悪化しておらず、緊急的な利下げを必要とする環境ではない。しかし、物価上昇の主因が供給制約やエネルギー高にある以上、利上げを重ねても問題の根本を解消しにくい。さらに、家計の実質所得は圧迫され、消費を信用で補う動きもみられるため、利上げを続ければ個人消費を傷める可能性が高まる。
したがって、弊社では、仮に1回程度の利上げが可能であったとしても、その持続性には乏しいとみている。同時に、トランプ氏が求める利下げに転じることも難しい。足元の米国経済は、インフレを理由に利上げを続けることにも、景気対策として利下げへ転じることにも、それぞれ制約がある局面と考えられる。
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