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危機の時代に「国家と市場」を再設計:ジョン・メイナード・ケインズ

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2月6日は、ジョン・メイナード・ケインズの誕生日

2月6日は、20世紀経済思想を根底から書き換えた経済学者、ジョン・メイナード・ケインズの誕生日です。ケインズが経済学者として世で脚光を浴び始めたのは、第一次世界大戦後の混乱と1929年の世界恐慌が起きた頃でした。それまでの「不景気な時は、市場に任せておけば自然に賃金が下がりその結果として雇用が回復する」という教科書的な説明は、現実に起きている大量失業の前では完全に無力でした。需要が不足し、企業が投資を控え、失業が固定化する――ケインズは、こうした悪循環を「有効需要の不足」と考え、問題は個々の市場ではなく、経済全体の需要水準にあると説明しました。

市場は常に均衡へ向かうという古典派的な信念が支配していた時代に、「不況は自然に治らないため国家が積極的に関与すべき」、という考え方を、理論として正面から肯定したのがケインズの主張です。この思想は、金融政策・財政政策・国際通貨制度にまで及び、今日でも政策運営の基礎的な構造を形づくるものとなっています。

ケインズの革新性は、経済を「部分の集合体」ではなく、「総体としてのシステム」として分析した点にあります。例えば、家計が節約を強めると、社会全体では需要が減り、かえってそれぞれの家計の所得が縮小します。このように、個人にとっては合理的と思われる行動が、社会全体では不合理な結果をもたらすことがあります。こうした逆説的な状況は、金融危機やデフレ局面の経済で繰り返し観測されてきました。ケインズは、こうした状況が生じているときには、政府が最後の需要主体として支出を行い、経済の底割れを防ぐ必要があると、論じました。

この発想は、現代の金融政策・財政政策に直結します。中央銀行による金利操作や量的緩和は、需要不足を金融面から補おうとする試みです。一方、政府による財政出動は、直接的に有効な需要を創出する手段となります。リーマン・ショック後や新型コロナ危機において、各国の政府が巨額の財政支出と金融緩和を同時に行ったことは、ケインズ的な経済危機への処方箋が依然として有効であることを示しています。

一方で、ケインズは「無制限な政府介入」を唱えたわけではありません。彼は、平時には市場の創造性や価格メカニズムにより、むしろ市場が効率的に機能することを前提としています。重要なことは、景気循環に応じて政策のスタンスを切り替える柔軟性です。不況時には大胆に支出し、好況時には財政を引き締める。このカウンター・シクリカルな発想は、理論としては明快だが、政治的には極めて難しいものです。だからこそ、ケインズは経済政策を「技術」であると同時に「制度と倫理の問題」として捉えていました。

日本では、バブル後に失われた30年として長いデフレの時代が続きました。この中で、国の経済は縮小に向かい、出生率の低下も進んでいます。この状況下で、平時における市場の創造性を重視することで解決すべきなのか、それとも非常時であり政府の介入により解決すべきなのか。いずれの考え方が求められているのかが、2026年の衆議院選挙では問われており、またその結果が壮大な社会実験として後世に語りつがれるのではないでしょうか。

上田 祐介
上田 祐介
チーフインベストメントストラテジスト
JTG証券経済調査室長 兼 チーフインベストメントストラテジスト。クオンツアナリストとして職歴を開始。その後は複数の大手外資系投資銀行などで主にクレジット市場関連の業務を歴任。海外クレジット市場の分析に強み。

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