AT1証券のベイルイン・トリガーの解説(4) – ECB監督下AT1債のベイルイン制度 –
本レポートでは、ECB監督下の銀行が発行するAT1債のベイルインに関連した規制上の注意点などについて解説する。
ECB監督下銀行のAT1債のベイルイン関連規制
- ECB監督下の銀行のAT1債などを用いた損失吸収は、基本的には契約型アプローチ (ただし、一部が法定型)。
- EU銀行AT1債の定量的トリガー; 一般に「連結CET1比率が5.125%を下回った場合」がトリガー(ロー・トリガー)。 銀行によっては、より高い7%等のトリガーを設定している場合も(ハイ・トリガー)。定量的トリガー適用時の損失吸収手段は、額面減額・株式転換のいずれの規定もあるものが多い。
- EU銀行AT1債の定性的トリガー(PONV);定性型(PONV)のトリガーについては契約条項ではなく、外部の破綻法制で決定する法定型(Statutory)アプローチが取られている。 BRRDのような統一規則だけではなく、各国それぞれの法律の「将来時点の」変更によっても、都度ベイルイン条件が事後的に変更され得る点に注意。
- EU銀行の契約条件は個別性が強く、各社・各債券の契約条件を確認することが重要
- 実質破綻認定(PONV)の場合;制度設計的には、AT1債のベイルインが株式に先行することも可能。ただし、実務的には、PONV時の最終的な回収順位は守られやすい。
欧州の例外的な「破綻前」公的資金注入事例
- 本来、BRRDでは、公的資本注入は「最後の手段(バックストップ)」であり、ベイルイン優先の枠組みが原則。
- しかし、こうした制度の整備後の2017年に、イタリアのモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(MPS)に対してイタリア政府が「破綻前」に公的資本注入を実施する例外的措置を実施
- 国レベルの法制が、事後的にBRRDの原則と異なる形で修正を適用され得ることが、EU特有の不透明要因。
ECB監督下銀行へのAT1債のベイルイン・リスクに関するポイント
- 法制度の適用に関する不安定要因を含んでいるEU銀行のAT1債投資の検討にあたっては、特に各国内の下位銀行やCET1比率に余裕がない銀行などのAT1債への投資について、個人投資家の場合には慎重である必要がある。