米国格下げ等、財政懸念を活かす債券投資
本レポートでは、Moody’sによるアメリカ合衆国国債の最上位格付からの格下げなどを踏まえた市場状況を確認し、投資機会について考察する。
米国国債の信用格付けの引き下げ
- 5月16日、ムーディーズでは米国政府の信用格付けを最上位のAaa格からAa1格に1ノッチ引き下げ。S&P、Fitchははるかに早い段階で格下げ済み。
- 3社の格下げ理由が示すように、米国で適切な財政計画が立てられないまま、財政赤字が継続し債務負担が増大し続けてきたこと、 また債務上限引き上げを巡る政治的な対立が繰り返されてきたことなどが、米国国債の信用格付け引き下げ理由とされている。
トランプ政権の「One, Big, Beautiful Bill(OBBB、一つの大きく美しい法案)」
- 米トランプ政権では、既に「One, Big, Beautiful Bill(OBBB、一つの大きく美しい法案)」を議会に送致しており、下院では可決。
- 米国の議会予算局(CBO)の予備分析によれば、OBBBが恒久化(減税・支出拡大の恒久化)されると、FY2024に99%だった連邦政府のGDP比債務比率は、2034年129%、2054年200%まで上昇しうる。
債券・CDS市場への影響
- トランプ政権が提出したOBBB(法案)の内容などを受け、米国では輸入関税に伴うインフレの恒久化や、発行増による需給懸念などから、米国国債の長期・超長期金利は大幅に上昇した。
- 米国の財政規律に対する警戒感が、より強く反映されたのは、国債のデフォルト可能性の大きさを反映するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)。 米国の5年CDSスプレッドは55bpsと、中国の53.8bpsと逆転した。これはソブリンCDS取引が開始されて以来初めての状況。
- こうした市場環境を考えた場合に有効な債券投資戦略; i). 超長期の米国国債は、魅力的な利回り水準を提供。ただし、価格変動リスクも非常に高まっている状況。 ii). より価格変動リスクを抑制した投資機会を考えた場合、米国CDSをリンクした銀行発行債など、ダブルクレジットを参照するクレジット・リンク債では、通常の5年の銀行シニア債に+0.5%程度利回りが上乗せされる可能性がある。