カテゴリーを選択する

つれづれなるままに

「見えないもの」を人類に見せたレントゲン

「見えないもの」を人類に見せたレントゲン

記事をシェアする

3月27日はX線を発見した物理学者レントゲンの誕生日

静かな光にいたる好奇心のはじまり

3月27日は、X線を発見した物理学者ヴィルヘルム・コンラート・レントゲンの誕生日です。1845年のこの日にドイツで生まれた彼は、のちに世界の医学と科学の風景を一変させました。子どもの頃は、特別な“天才少年”として語られるよりも、自然の中を歩き回るのが好きで、機械をいじったり工夫したりすることに強い関心を示すタイプだったそうです。レントゲンは、「気になることを放っておけない人」で、粘り強くそして長く物事に取り組み続ける才能を持っていました。彼は“見えない世界をのぞく扉”を開いた人でありながら、研究の出発点は意外なほど普通の人間らしい静かな好奇心でした。

暗い実験室で始まり、世界を変えた“偶然”

1895年11月8日、レントゲンは暗い実験室の中で、説明のつかない光を目にしました。陰極線管の実験中、黒い紙で覆っていたはずの装置の向こうで、蛍光板がかすかに光ったのです。普通なら、見間違いか偶然で片づけてしまうかもしれません。でも彼は、その小さな異変を見逃しませんでした。紙も木もアルミニウムも通り抜ける、正体不明の“新しい線”。だから、彼はそれを、未知を表す文字そのままに「X線」と呼びました。見えないものが、たしかにそこにある。そう信じて、彼は何度も確かめ、考え、ひとつひとつ手でたぐるように研究を進めていきます。発見の直後、彼は約7週間ほとんど人に明かさず研究を続け、研究室にベッドまで運び込み、周囲からは何をしているのかわからない状態になったと伝えられています。本人も、こんな研究をしていると知られたら「気が変になったと思われるだろう」と語ったそうで、“研究者あるある”のお人柄がうかがえますね。

一枚の「手の写真」が、医学の未来を動かした

レントゲンの発見を世界に伝えたのが、妻アンナ・ベルタの手を写した有名なX線写真でした。骨の輪郭と、指にはめられた指輪が浮かび上がるその一枚は、いま見ても不思議な迫力があります。当時、「人の体の内側を切らずに見る」という発想がどれほど衝撃的だったでしょうか。人は痛みの原因を、体を開かずに知ることができるかもしれない。苦しむ人を、もっと早く助けられるかもしれない――この写真は、そんな希望そのものでした。

レントゲンはこの発見によって1901年、第1回ノーベル物理学賞を受賞しました。ただ、彼の偉さは受賞歴だけではありません。X線の発見を特許で囲い込まず、「発見は広く役立つべきものだ」という姿勢を貫きました。このため、各地の研究者や医師がすぐに再現し、改良し、医療への応用を急速に進めることができました。名声を独占するより、知識を解放し、社会を豊かにするほうを選んだ。その選択まで含めて、レントゲンは“偉大な発見者”であると同時に、“科学”の力で“社会”を変えた人だったのです。

最先端医療の中にもあるレントゲンの一歩

レントゲンの実績は、決して教科書の中だけに残っているわけではありません。骨折の確認や胸部の検査など、いま私たちが病院で受ける“レントゲン撮影”そのものが、彼の発見の延長線上にあります。しかもその技術は、まだ進化を続けています。最近では、X線光子を一つひとつ数えて解析する「フォトンカウンティングCT」が実用化され、従来より高い解像度やノイズ低減、低線量化が期待され、耳の細かな骨の評価や、従来法で見つけにくかった髄液漏れの検出にも役立っています。つまり、1895年に暗い研究室で始まった“未知の光”は、2020年代の精密医療にまでまっすぐつながっているということです。見えなかったものを見えるようにする――そのレントゲンの発想は、現代の医療機器にも、私たちの安心にも、いまなお静かに息づいています。

注. なお今回のコラムでは、ノーベル賞ホームページ内のレントゲンのページを主に参照しています。

上田 祐介
上田 祐介
チーフインベストメントストラテジスト
JTG証券経済調査室長 兼 チーフインベストメントストラテジスト。クオンツアナリストとして職歴を開始。その後は複数の大手外資系投資銀行などで主にクレジット市場関連の業務を歴任。海外クレジット市場の分析に強み。

記事をシェアする

免責事項

  • 本サイトは証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘や紹介する個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。最終的な投資判断は投資家ご自身でおこなってください。万一、本サイトの情報に基づいて投資した結果、お客さまが損害を被ったとしても本サイトの運営会社は一切その責任を負うものではありません。
  • 本サイトの内容は作成時点のものであり、信頼できると判断した情報源からの情報に基づいて作成したものですが、正確性、完全性を保証するものではありません。
    本サイトに記載の情報、意見等は予告なく変更される可能性があります。